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羞恥

novels(original)

感情装置は100秒数える間もなく壊れた

 

私は恥部です!陳子は生きてる恥ずかしさの余りそのように言うしかなかった。同級生たちは皆笑った。そしてもっともっとと求めてくる。あぁ、なんて下賤で卑しい猿たちなのだろう。陳子はそれらを突っ撥ねるには傷つけられ過ぎていたから、上手に猿たちの要望に答えて踊ってみせた。

ある日陳子が学校での半日を夢遊病者のように過ごし帰り道に着くと、途中の公園で線の細い少年に出会った。彼はとても整った美しい顔の持ち主で、それでいてどこか儚げな、まるで今すぐにでも消えて無くなってしまいそうな笑みを浮かべていた。陳子は一目で恋に落ちた。しかし自分のような、卑しい恥部のような人間があの美しい少年に声をかけて良い筈がない。陳子は叶わぬ恋のようだと一人諦めて、家に帰ろうとした。するとあろう事か少年の方から陳子に声をかけてきた。
「君、泣いてるの」
う、ううん。ちょっと西日が眩しかっただけ…陳子は恥ずかしさのあまりに吃ってしまった。
「ははっ。君の喋り方、なんか変だね」
少年はそれまで陳子を嘲け笑ってきた猿たちとは違う、心のこもった笑みを返してきた。陳子はそれだけで生きてきたこの十数年間が報われたような気がした。
それから陳子と少年はよく話すようになった。陳子は自分が学校で如何に優れた人間性を発揮しているか、しかし実際には全く真逆な話をでたらめな調子で少年に語り聞かせた。少年は彼女がコブシを入れながら話したり、時には感涙さえして見せる様子にいたく喜んでいた。彼女は全く大した舞台役者の様であった。
ある日彼女がいつもより少し早く公園に訪れると、そこに少年が尋常な量の血を吐いて倒れていた。陳子は取り乱した。警察、いや救急車呼ばなくちゃ。何番だなんまいだ、まだ死んでない!あ、電話なんて持ってないや。誰か大人の人呼んでこなくちゃ。ちょっとここで待っててね。陳子がその場を離れようとすると、何故か少年に引き止められた。その眼がまるで曇った窓ガラスのように虚ろで何も写っていないようだったので、陳子はこの世界の平衡感覚を失ってしまったように思えた。
「もうすぐ死ぬんだ。僕がここで血を吐いて死んでいくのを君に見ていて欲しい」
少年はそう言ってまた血を吐いた。馬鹿なこと言わないで!陳子はそう言って走り出そうとしたが、少年が腕を掴みその爪が食い込むほど強く引きとめてきた。この人は死にかけてるはずなのにどこにそんな力が残っているんだろう。その力強さに陳子は呆然としてしまった。やがて少年の息が止まる頃にはそこら中に血の池が広がって、その水面はまるで鏡のように陳子の姿をくっきりと映し出すほど薄く透き通った赤をしていた。
ああ、この人はまるで夢の中で生まれて夢の中で死んでしまったんだなぁ。陳子は何となく納得すると、身の回りの血の池を手ですくって少しずつ飲んでいった。別に味なんて感じなかった。だんだんただの作業じみてくると、手ですくうのも億劫に感じて地面に這いつくばって直接口をつけて舐めていった。まるで犬になった気分で、与えられた水を舐めるように貪りついた。これではいつもみたいにただ嘲り笑うためだけに求められて、踊っているのと変わらないなぁって。あまりに空虚に感じてきたので、せめてこの美しい少年の流す血で窒息しようとして陳子は血の池に顔面を突っ伏した。もがもが。

気づくといつの間にかとても薄い赤は消えていて、不健康な白が視界を占有している。いつもよりベッドが固かったので、ここは自分の部屋じゃないことには気づいた。そこは病室だったが、不思議と薬品の匂いがしなかったのは後でこの病室は精神病院の病室だからだと知った。ベッドの横で母が泣いていた。気づいてあげられなくてごめんなさいって。何度も謝られた。私はそれを呆然と眺めていたので、まるで録画映像を見ているように何の気持ちも想起されず、ふとあの少年のことを思い出したので聞いてみると、母はまるで不気味なものを見るような目をした。

それからはとてもスムーズで、陳子は病院を退院すると同時に学校を転校した。名前も改名したので、新しい学校ではそこそこうまくやれている。しかし時々、あの時感じなかったはずの血の池の味が口の中に広がって息が出来なくなることがあった。その時は決まって精神病院で医師に言われたことを思い出す。あの血の池はあなたの心の出血によってできたものですよ。あなたが見た美しい少年はあなたの心が生み出したフィクションですよと。陳子は今もその発作に悩まされている。

 

 

 

小説っぽいの書きました。中身の少なさが詩のような気もしますが、原稿用紙2枚分はあったので一応小説ということで。詩と小説の違いって多分中身の量かと。詩の方が削られてる分伝えたいイメージを表現しやすくて、反対に小説はその長さの分だけ時々の感情や感触、質感を表現できるのかなって。しっかり分類してみたい気もしますが僕はその辺いつもアバウトにやってますので、そこに新しくスイッチを増やしたら思考事故になるのではないか、何となく怖いので先延ばしにしたいと思います。

中身の空っぽさを笑ってください。最初の数分書いて放置してましたが、続きからほとんど勢いだけで書いたので全く練ってません。何となく、女の子を書きたかったのです。頭が壊れた女の子、それもとても人間らしく壊れた女の子を。

60pの短編くらいで書けるようになったら、カクヨム辺りに投稿してみたいと思います。新総理が就任した時くらいの気持ちで応援して頂ければ幸いです。